Edelsteinkiste
3.王宮にて2nd
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「失礼いたします。
ジャニス・ガーネット参上致しました。」
「ああ、よく来てくれた。入ってくれ。」
凛と通る落ち着いた声音。
かっちりと軍服に身を包んで現れたのは
自分とそう歳の変わらない女性だった。
癖の強い焦げ茶色の髪は、肩に掛からない所で切り揃えられ
猫のような大きな鳶色の瞳に、赤いフレームの眼鏡を掛けている。
真っ白な陶器のような肌、目尻に小さな泣き黒子があった。
きり、と
薔薇色の唇を結び、背筋をぴんと張って
静かながらてきぱきとした動作に、軍人の一端が垣間見える。
「ジャニス・ガーネットだ。彼女がお前の護衛を担当する。」
「……は?」
思わず間抜けな声が出た。
もう一度、しげしげとその女性を見やる。
無表情とはいえ、人形のように整った顔立ち
女性にしては少し背は高めなのかもしれないが
それでも小さな肩、細い腕。
軍服の脇に携えた儀礼の剣でさえ、どこか重そうにも見えた。
正直、護衛というには頼りないというより他にない。
そもそも女性に護られるなんて…と、困惑した表情の俺を他所に
ジャニスと呼ばれた女戦士は、俺の前に静かに跪く。
----ふわり
気のせいかと思う程の一瞬…幽かに
嗅いだ事のない不思議な甘い香りがした。
「ジャニス・ガーネットと申します。
この度は初陣の護衛を仰せつかり、身に余る光栄に存じます…主」
「……な…、」
驚いて、傅くその女性を見た。
言おうとした言葉は声にならない。
……初陣……
彼女は今、そう言ったのか
「父上…!!」
血相を変えて父に詰め寄ろうとした俺の後ろから
取り乱した様子もない静かな声が追う。
「…失言でした。
まだお話し中でしたか。ご無礼を」
思わず振り返った先にいた人は
折っていた膝を戻し緩くはたいている所だった
もう一度背筋を伸ばし起立すると
彼女は父を見据えそう言った。
…声音どころか
その鳶色の双眸まで、何の色も含まない。
「構わん。誰が言おうがもう決まったことだからな」
父はそういい、一つ笑った。
逆光に浮かぶ父が、まるで知らない人のようで
"もう決まったこと"…?
そんな話は一度だって聞いていない。
昨日の文にだって何一つ書いてはいなかった。
肌が粟立つ様な感覚、焦燥に
「…私は戦場には行きません。何度も申し上げたはずです!」
思わず声が跳ねる。
…どうして急に。
そんな事ばかりが、頭の中を駆けていた。
「もうお前も23だろう。…此度の戦は我らにとって厳しい戦いになる。
お前は頭も良いし、剣の腕も立つ。ラピスラズリの旗の下に兵を率いて欲しい」
「……私は…戦の為に剣を学んだのではない…ッ」
一つ一つの言葉が
鉛のように重く圧し掛かる思いだった。
遣り切れない思いに俯き
拳を握り締めて、なんとか声を搾り出す。
「……何時までもお前ばかりを甘やかしてはおれん。」
「……!!」
何処までも冷静に言い放った父に
それ以上何も言えない。
身体が崩れ落ちてしまいそうだった。
……どうして。
これ以上人が死ぬのを、見るのは嫌なのに。