蜻蛉恋歌

梅花の香

 

 春の名残を惜しむ様に

 薫いた香りは梅の香



「…ん。」

「解る?」


 貴方はシャツに袖を通して、其の侭止まった。


「…梅花の香なんて良く見つけたな。」


 染み返る香を確かめるように
 袖に鼻を近付けてふんふんとしているのがなんだか可愛い。


「この間ナホちゃんが呉れたの」

「嗚呼…雑貨屋さんだっけ。しばらく会ってないな、元気だったか?」

「うん。今度マホちゃんと遊びに来るって。良いよね?」

「嗚呼。」


 アジア系のお香がスタンダードと為りつつ在る昨今、純和風の香というのは以外と少ない。
 そんな中、雑貨屋さんでバイトをして居るお友達から、此の紅色の香を貰った。

 其れはご丁寧に花弁の形を模して居て
 薄紅のケースには五枚の花弁を持つ梅の花が三つと、白磁に鶯の香立てが綺麗に収められて居た。

 火を点けるのを少し躊躇ったのだけど
 使わずに此の胸を透く香りを飛ばして仕舞うのは余りにも忍びなくて。


「香立てもね、可愛いの。持って来る、一本焚くね」

「嗚呼」


 梅に鶯

 紅の香


 マッチを忘れて取りに戻ろうとした私を制して、貴方が懐から取り出したライターで火を点けた。


 煙ゆる香りは

 春の香


「良い匂い」

「……」

「如何かした?」


 白いテーブルを挟んで、貴方が呆として居たから。
 そう声を掛けたのだけど、

「…否。」


 貴方は口許に手をやりながら素っ気なくそう言って
 髪の上から私の額にキスをした。



 春の名残を惜しむ様に

 焚いた香りは梅の香

 

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