蜻蛉恋歌


-カミナリ-

 

 

「降ってきちゃった…」


 五月の末の午後、天気予報は晴れ後雨。

 家を出る時は抜ける様な五月晴れだった故 


 ほんの少し、買い物に出て 

 すぐに帰れば間に合うだろうと思ったのが甘かった様だ。


「…っ、」


 霹靂。
 遠くから腹に響く重い音。

 人並みに、私も此の音は苦手。

 篠つく雨の音 
 煙ゆる水の飛沫 

 残念ながら雨を読む等という特技は私にはない。
 何時になるとも知れない雨が上がるのを待つより、諦めて一度店内に戻って傘を買おうか。
 此処から家までなら、急げば十分も掛からない。


 ------ドゴォォン… 


「…、」


 踵を返して、自動ドアをくぐった所で私の携帯が鳴って居る事に気付いた。
 業務連絡用に持たされて居た其れを、鞄に入れっ放しだったらしい。

 …余り使っていないので、操作方法が怪しかったが 
 何故か二つある受話器のマークの左側を押して耳を当てた 


「------はい?」

≪今何処だ?≫

「え?…貴方仕事は?」


 慌てて番号も見て居なかった故 
 予想だにしない声に一瞬驚いた。

 私が出かける時、貴方は忙しくマックに音を打ち込んで居た筈。
 行って来ますと一応投げ掛けた声だって聞こえて居なかったに違いないのに。


≪靂が聞こえた故≫


 …… 

 篠つく、雨の音。

 表に居た時よりは随分小さかったが 


 ------ドゴォォン… 


 …其の遠くの雷鳴さえ 


≪迎えに行く。傘…嗚呼持ってってないな。 
 中で待ってろ≫

「…。うん」




 何処か心地良く 

 響いた。




 其れから十分と経たない内に、貴方は其の扉をくぐった 
 着古したジーパンは脛の辺りまで濡れて居て 

『此れじゃ傘も余り意味が無いな』と苦笑する故 


 私も少し笑った。




 貴方の茶色の傘と、私のお気に入りの蛙の傘を並べて 

 手を繋いだ 

 飛沫に煙ゆる帰り道。

 

表紙/目次

右寄せが思ったより遥かに読みにくくてごめんなさい…。
だがあえてこのまま行く(優しくない)

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