蜻蛉恋歌
絨毯
雪が降る
薄紅の雪が降る。
「絨毯」
貴方は唐突に、笑って足下を指差した。
「…うん。綺麗」
私も笑った。
散り始めた八重桜の花弁が、アスファルトを濃い桜色に覆い尽くして居た。
『もう春も終わりね』と
降り頻る薄紅の雪に打たれて歩みを進めながら、呟く。
踏み締める地面は、何時もより柔らかい。
「良かった」
「何が?」
「今年も貴方と桜が見られて」
「……」
…もう、五年になる。
貴方に、付いて行くと決めてから。
考えて、数字にしてみれば其れは
随分と長い時間だと気付く。
「…別に、何時でも見られる。そういう言い方、するな。」
そう言って、貴方は私の帽子の鍔を下げた。
…此の侭
私が立ち止まって居たら、
貴方は私を置いて行くかしら。
「…こら、行くぞ」
「……」
…私は、まだ
貴方が求めてくれた私だろうか。
"何時でも"、なんて
私の声が嗄れてしまっても
貴方はそう言って呉れるだろうか。
「…大丈夫か…?」
「…平気。目、ちょっと擦っただけ。行こ」
「其れは悪かった…走るなよ、転ぶぞ」
「子供じゃありません。」
…振り返った私は、上手く笑えて居た?
…言えない。
とても、訊けない。
理由が如何あれ、貴方が
私を必要として呉れて居る内は。
あれ…もっと敷き詰めたかったはずなのに…。